【インタビュー】川に触れ、川から学び、川と共に生きる
2017 .08 .12
『川に触れ、川から学び、川と共に生きる』
土佐山には、龍馬が泳いだ川としても知られ、名水百選にも選ばれている「鏡川」の源流があります。アユ釣りができる稀有な川で、夏は川漁や川遊びなどを楽しむ人々で賑わっています。土佐山で川と共に生まれ育ち、“アユとり名人” でもある中野さん親子にお話をお聞きしました。
——— 羚愛(れいあ)くんは、生粋の土佐山っこということですが、お父さんの信也さんもでしょうか?
中野(父) そうです。僕も土佐山生まれ土佐山育ちで、ずーっと土佐山です。都会の人混みに耐えられないので(笑)。
——— 都会よりも、やはり自然の多い土佐山の方が心地良いのでしょうか?
中野(父) そうですね。豊かな自然も食べるものもあるし、 昔に比べれば今は道も整って街にも出やすいし、不便なことがないですよね。唯一ないものは、24時間営業のコンビニくらいだけど、僕は特に不自由ないですね。ただ、嫁さんは、最初土佐山に来た時はどうしようって思ったみたいだけど。
——— 「あじさいグループ」の和恵さんも同じこと仰っていました。「山ばっかり」って…。
川のアユ漁解禁日は、今でも子どもの気分。
——— 川に入り始めたのはいつ頃ですか?
中野(父) 小学校6年くらいだったかな。その頃は、ウエットスーツなんてなかったので、海パンとTシャツだけで。当時は、川のアユ漁解禁日が確か6月1日で、朝学校行く前に川に入ってた。今では解禁の日は、会社に休みたいと言わずとも、みんな分かってくれてる。「中野さん、川やろ」って。
——— 毎年、解禁日が待ち遠しくて仕方ないのでしょうね。
中野(父) いまだに子どもの気分です。僕だけではなくて、みんなそう。川が少々濁って無理やろうなと思っても、年一回のお祭りやき、ひとまず行こうかと。案の定、入ったら川が濁って見えなくて、スーツ来て帰る時もあるけど、解禁の日は特別で、本当にいまだにワクワクする。
アユを探して鏡川に潜る中野さん親子。漁具:棒しゃくり(ひご)。
——— 解禁日には、本当にたくさんの人たちが川に来ていますよね。その熱気が地区中に伝わってきます。
自然のサイクルで生きている。
——— 川には自然と入るようになったのですか?
中野(父) そうですね。僕も息子もゲームはあまり好きではないので、ゲームする時間があったら、川に行く。今の季節だったら、山芋を掘りに行ったり、山登りに行ったり。自然のサイクル通りに生きているんだよね。
——— 自然のサイクル!素晴らしいです。
中野(父) 今は時代とともに環境も変わって、子どもが自然に触れる機会が減ってきている。僕が小学生だった時は、学校からまっすぐ帰った記憶がない。先輩らと一緒に遊びながら帰ってた。食べられるものを探したりしてね。春は道端のイタドリを採ったり、初夏にはびわ。夏は川に入って、秋はアケビを採ったり。
——— 豊かな通学時間ですね。どこに何が生っているのか、頭に入っているのですか?
中野(父) 入っていますね。先輩から教えてもらって。今は子どもの数が減って、上級生と下級生のつながりがなくなってしまっているよね。最近だと川で遊ぶ時に必ず親が付いているけども、昔は親が上級生に任せていた。何か危ないことがあったら、6年生が真っ先に来ていた。上級生に泣かされたこともあったけど、それを嫌だと感じたことはなかったよね。
——— 羚愛くんは、お父さんから受け継いでいるのですか?
中野(父) この子も、学校の帰り道に山栗をポケットに入れて来たり、椎の実も必ず毎年採っている。まあまあ田舎に染まっちゅうね。僕やおばあちゃんの影響が大きいと思う。
——— おじいちゃんおばあちゃんと一緒に暮らすのは、本当にいいことだと思います。
中野(父) やっぱり子どものためにはすごくいいよね。人間関係は、家族から学べる。あとこの子は、川を通じて、地元の人に会う機会がある。 “アユとり” の知り合いがいっぱいいる。“アユとり” 仲間の中では、もうすっかりタメ語ですよ。
水の中で「とーん」という音が響く。
——— 信也さんは、川での技は、どうやって学んだのですか?
中野(父) 基本的には先輩らに習って、それを工夫して 。あとはセンス!(笑)
「金突き」(魚を突く道具)も、釣り具屋さんの完成品はダメ!金突き本体と竹を買って自分で取り付ける。水中で金突きが回転しないようにすることが大事。まだまだ技を磨き中です。
左: 魚を突く道具「金突き」、右: 羚愛くんが棒しゃくり(ひご)でとったアユ。
中野(父) アユって、ど真ん中を突くと、水の中で「とーん」という音が響くんですよ。この子も今年初めて大きいアユを突いたね。
——— 羚愛くん、音を聞いたの?
羚愛 うん。「とーん」っていう音がした。
——— それは、忘れられないね。
中野(父) その感覚は一生残りますね。それを知っちゃうともう病みつきですよ。
——— すごいですね。その若さで!
中野(父) やっぱり子どもは覚えが早いですよ。大人になってから始めると、どうしても型にはまってしまうけど、子どもは実際にやりながら体が覚えるから、上達も早い。子どもの頃の経験は、記憶に残っていく。川に実際入ると、川の面白さと怖さと両方知れるので、 危ないかどうかの判断もつくようになる。普段から自然に触れることで、生きる力はだいぶついちゅう。
——— たくましいですね。これからの時代、生きていく力がますます必要になっていきますよね。羚愛くんは、今いちばん好きなことは何?
羚愛 うーん、魚釣り。
——— 家でゲームするより健康的だし、本当にいいことですよね。
子どもが川で遊べる環境を守っていきたい。
中野(父) 街の子どもたちにも遊びに来てほしい。夏に家族でキャンプしたり、川遊びしたり。子どもにとっては、すごい面白いと思うんですよ。親子でアユ1匹でも突いたら、それは一生の思い出になる。何でもかんでも漁を規制してしまったら、自然に触れる機会が減ってしまうことにもなり得る。数匹とっただけで崩れるような生態系だったら、もともと無理だと思うんです。普段から川と接する機会があれば、自然と川を守る気持ちも生まれるしね。
——— キャンプのゴミを川に捨てたりしなくなりますよね。
中野(父) 川でアユがとれて食べることができたら、逆にゴミを拾って帰ると思うんですよね。子どもが自然と「川をキレイにせんと」って思うようになるためには、子どもが川を楽しいと思わないとそうはならない。自分でとったものは格別においしい。そういった経験をすることが大事。
——— 街の子も、山の子も、みんなが一緒に川で遊べる環境をつくっていきたいですね。
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< お話をうかがった人 >
中野 信也(なかの しんや)
土佐山中切地区生まれ。日々の暮らしで好きなことは、飲み会と昼寝(笑)。幸せを感じるのは、季節の食材を収穫した時。
中野 羚愛(なかの れいあ)
2005年土佐山中切地区生まれ。日々の暮らしで好きなことは、食事と睡眠(笑)。幸せを感じるのは、釣りに行って大きな魚が釣れた時。
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